スパゲティナポリタンやプリン・ア・ラ・モードの発祥の地、横浜市中区山下町のホテルニューグランドで、開業80周年を記念する新しいカレーが生まれた。「驚きの仔牛(こうし)のカレー」。月末で姿を消す期間限定、幻の味だ。
ナイフをあてがうと肉の中から、伝統のカレーが自慢のフィットチーネにあふれだした=ホテルニューグランドで
何が「驚き」なのか。
注文して約15分、山下公園を望む「ザ・カフェ」のテーブルに現れた新メニューは、カレーに必要な要素が、ことごとく欠けていた。
一、白飯がない。
二、カレーの姿がない。
三、よって香り立ちもしない。
幅広のパスタ・フィットチーネの上に、丸みを帯びた仔牛の肉がただ、鎮座していた。
シェフの加藤寛(ゆたか)さん(52)が挑むような表情で「どうです? そろそろ、いってみますか」。
ナイフで縦にスッとひと筋切れ目を入れた。
その瞬間、白い湯気とともにカレーがあふれ出した。香りが鼻に飛び込む。料理全体が暖色系の色あいに変わった。
フィットチーネをからめると、パスタのもちもち感と、さらりとしたカレーの食感が新鮮だ。
加藤シェフは、客の驚く顔を想像しながら開業80周年記念の新メニューを考えたという。「いつも変なことを考えているんですよ」と笑う。
ケーキをかじると中からチョコレートがあふれ出してくる「フォンダンショコラ」がヒントだった。
中が空洞の仔牛肉に、開業から80年間レシピが変わらない伝統カレーを隠した。ただし、カレーがほどよくあふれだすよう、濃度を薄めにした。だから、白飯ではソースにおぼれてしまう。試行錯誤の末、よくからむ幅広のパスタにした。
だが、ニューグランドは、マッカーサー連合国軍総司令官が宿泊した伝統と格式のホテルだ。80年間受け継がれるレシピも「変わらないこと」が大事なのでは――。
「先輩たちが築き上げてきた財産を崩してはいけません」と加藤さん。
「しかし、それは伝統にしばられるということではない。伝統を忠実に消化し、自分のものとしてこそ、新しいものを生み出せる。これがニューグランドの伝統です」
初代総料理長のサリー・ワイル氏は、アラカルト(一品料理)の導入やドリアの考案など、斬新な発想で、日本の料理界に大きな影響を与えた。進取の気鋭は脈々と受け継がれている。
伝統を守りながら新たな地平を開こうとする気概を感じる一皿は2800円(税別)。月末で姿を消すのは、「ホテルのコンセプトからは外れている」からだという。
出典:asahi.com
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